(個別記事)第一章 マグロ資源管理について考える
#未所持 #本文メモ #個別記事
Keywords:資源管理 漁業 食料問題 マグロ マダイ サケ クロマグロキハダメバチ
著者:森下丈二
※海の食料資源の科学 持続可能な発展にむけて個別記事
個人的総括
マグロを海洋資源として捉えるか、野生生物として捉えるかで資源管理のやり方が大きく変わる
マグロのことをよく知らないまま需要に任せて消費していることが、マグロを苦しめている
クロマグロはトロ需要に、メバチやキハダは少品種大量消費の市場構造に苦しめられている
彼らのことをよく知ることで結果的にマグロを守れるようになる、かも?
実はトロは蓄養で作られていて、マグロを食べるくらいならエサのサバやイワシを食べた方がいいよ、などの情報
以下メモ
マグロ資源管理について考える
きになる単語
初期資源量
漁業がおこなわれない場合に理論上どこまで資源量が増加するかを推定した数字で、処女資源量、環境収容力などの概念と同等か近いもの
最大維持生産量(MSY)
初期資源量の半分ほどの資源量で、
生物学的許容漁獲量(ABC)
総漁獲可能量(TAC)
初期資源量
絶滅
生物学的絶滅
野生絶滅
商業的絶滅
国際自然保護連合レッドリスト、環境省レッドリスト、水産庁レッドリストの違い
フードマイレージ
食料の運搬距離が長いほど燃料消費等により二酸化炭素排出量が増加する、という指標
四定条件
一定時間に・一定の品質・規格の商品を・一定の価格で・一定量供給する
1 漁業資源としてのマグロ
1982年国連海洋条約の第64条 高度回遊性の種
1 沿岸国その他その国民がある地域において(中略)高度回遊性の種を漁獲する国は、排他的経済水域の内外を問わず(中略)当該種の保存を確保しかつ最適利用の目的を促進するため、(中略)協力する。
沿岸国は自国の排他的経済水域に回遊してくるマグロを自由に漁獲できない
日本がメンバーになっているマグロ類地域漁業管理機関は5機関(全機関)
5機関がマグロ類の資源評価を実施、資源評価に基づき生物学的許容漁獲量(ABC)を決定、ABCをベースとして総漁獲可能量(TAC)が決定される
TACはABCと同等或いはより小さいことが望ましい
2 野生生物保護の視点から見たマグロ類
1992年のワシントン条約第8回締約国会議にて、スウェーデンより大西洋クロマグロをワシントン条約付属書に掲載する提案あり
マグロ類を野生生物として認識し、野生生物として保護する考え方では最初のもの
WWF(世界自然保護基金)がスウェーデン政府に提出を働きかけたものといわれる
大西洋クロマグロの西部系群:条約付属書Ⅰに掲載
絶滅のおそれあり、国際取引による影響を受けているor受ける恐れがある
ジャイアントパンダ、トラ、ゴリラ、オランウータン、シロナガスクジラ等
大西洋クロマグロの東部系群:条約付属書Ⅱに掲載
現時点で必ずしも絶滅のおそれがあるわけではないが、標本の国際取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれがある
カバ、ウミイグアナ、ケープペンギン等
大西洋クロマグロを漁業資源として管理しているICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の加盟国とスウェーデンが協議
ICCATがクロマグロの管理措置を許可することと引き換えに提案を撤回することで合意
知らなかったなそんなの…
マグロ類にはしばしば「絶滅」や「乱獲」等の言葉が用いられるが、マスコミの報道や一般向け文章において定義が曖昧のまま使われており徒に危機感を煽っている感あり
太平洋クロマグロの親魚資源量(産卵可能個体のみを重量で表したもの)は1,7000 t(2014)で、体重50 kgとすると34万個体
生物学的に絶滅が危惧されるレベルではない
初期資源量の約2.6%でしかない
1960年代の推定親魚資源量から凡そ90%減少している
上記を鑑み、①野生生物として絶滅の危機から救うか ②漁業資源として資源回復を図るかということになるが…
①野生生物として解釈する場合
初期資源量までの回復とその維持を目標とする(※極端な場合)
漁獲量の削減、禁漁海域・禁漁期間を設定する
銀行口座でいえば、元金の最大化を目標とする考え方
②漁業資源として解釈する場合
最大維持生産量(MSY)レベルでの管理を目標とする
銀行口座でいえば、 利子が最大化される元金レベルを目標とし、その利子を永続的に利用していく考え方
この2つのアプローチは大きく違うにも関わらずごっちゃになってしまっており、国際論争に発展している
3 食料あるいは商品としてのマグロ
日本は世界のマグロ類の約19%を消費している
「世界中のマグロを日本が食べ尽くしている!」という批判の割には大したことない値
日本では水産物消費が継続的に減少している
逆に世界では水産物消費が増加している
なおクロマグロ・ミナミマグロの漁獲量に関しては日本が世界中のクロマグロ・ミナミマグロを食べ尽くしていると言われても仕方ない多さ
世界:マグロ類全体に占めるクロマグロ・ミナミマグロの供給量は2%程度(2014)
日本:マグロ類全体の15%程度
p68
世界のクロマグロとミナミマグロが日本という市場に集まってくるわけである。言い換えれば日本のクロマグロ、ミナミマグロ需要構造が、世界での両魚種の保存管理に大きな影響を与えるということになる。
あーあ…
p67
量販店などからすれば、マグロ類は様々な供給先のオプションが存在し、大量供給の条件に対応しやすい商材でもある。(中略)マグロ類に関しては、超低温冷凍設備のチェーンの恩恵で漁獲から数年間品質を保つことが可能、生鮮にちてはその魚価の高さから空輸でも採算が取れること、骨や皮のない形で消費者に提供でき、その結果料理に手がかからないという利便性、寿司の欠かせることのできない主用なネタという位置づけなど、多くの利点があることから量販店の水産物の主用商材として確立している。
生物学的許容漁獲量(ABC)に基づき総漁獲可能量(TAC)を設定したり漁獲努力量規制を導入することで魚類の持続可能な利用を図ろうとしているが、これは市場原理や消費需要から生まれる漁業資源への圧力の原因そのものに対する対応ではなく、生じた資源圧力への対処療法という性格
仮に資源管理が有効におこなわれていたとしても、食料安全保障の観点からすれば望ましくない状況に繋がっている…かも?
原文の文意分かりかねるのであくまで予想なんだけど、たとえば自国の消費需要に任せて自国のTAC上限まで漁獲したとして、足りない分は他の国のTAC割り当て分漁獲されたものを輸入することで補っているんだとしたら、TACによる漁業資源管理は有効ではあるが、日本の食料安全保障はより危ぶまれるよねという話ですか?
食料安全保障とは(農林水産省)
全ての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000022442.pdf
この章では日本の食料自給率に問題があるという話をしていて、マグロの資源量管理ができていても日本の食料自給率が低かったらまずいじゃないですかという話になってたのか いつのまにか…
なんかめちゃめちゃ狐につままれたような感じがするがまあいいや
少品種大量消費や利益の最大化を目指している市場原理が漁獲圧をもたらしているなか、単に漁獲圧を抑えるのではなく食料安全保障に貢献できる資源管理の方向性はあるのだろうか?
初期資源量の2.6%まで減った原因?
日本沿岸周辺で大量のマグロ未成魚が漁獲されてきたから
なぜ?
未成魚は古くから珍重されてきた(ソース不明)
養殖種苗・蓄養への需要増加
未成魚は蓄養ないしは養殖することで脂の乗った肉質になる
論理が短絡的かもしれないが、トロ需要のせいだ!
クロマグロ・ミナミマグロ需要構造は寿司・料理店のトロ需要が作ったもの
凄まじい論理でスタンディングオベーションしちゃったね
トロ需要という市場と消費の需要≒市場原理には手をつけずに「未成魚漁獲やめてね」と制限したとして、効くのか?必要な措置ではあるけれど限界もある
2017年に罰則付き法規制、TAC導入を検討している
これ2020年あたりに進展があった気がするので調査する
養殖で脂の乗ったマグロを生産するには体重増加分の10〜20倍の餌を与える必要あり
餌となっているイワシやアジやサバなどの多獲性魚を食べれば、食料安全保障が実現できるのでは?
一方トロ需要に対しメバチ・キハダはスーパーなど量販店の人気商材で、(カツオ除き)マグロ類の消費量の大半はこの2種
量販店が尊ぶ四定条件の需要に応えていることになる
メバチ・キハダの市場構造は需要(量販店)側の原理と力が支配的
たとえば同じ魚なら安い魚を買い付ける
仮に「安さ」の理由が国際的な漁業管理の対応費用の差(漁獲枠を順守していない、混獲防止策をとっていない等)であるなら、漁業資源管理の目的が達成されていないことにならないか?
ここまでの話の個人的な総論
クロマグロ(・ミナミマグロ)・メバチ・キハダはトロ需要及び少品種大量消費の市場構造により不適切(に見える)漁業資源管理を余儀なくされている状態?
では、食料安全保障に貢献しながら漁業資源管理をより有効にしていくには?
消費行動を変える
消費行動は与えられた情報によって変化する
健康効果がメディアで取り上げられると、一挙に売上が伸びる
かたや消費者はマグロ類や他の魚がどのように漁獲され、流通し、スーパーに辿り着いているか知らない
p77 情報を与えられて消費行動が影響されている例
1998年1月26日付タイム誌では、環境保護団体が、絶滅に瀕したメカジキを救うためにレストランでのメカジキ料理のボイコットを働きかけ、米国東海岸の少なくとも25人のシェフがこれに賛同し、メニューからメカジキを外すと報じている。メカジキの絶滅危惧については科学的な信ぴょう性に欠けるが、キャンペーンとしては大きく取り上げられ、その後も米国でのメカジキ消費行動に影響を与え続けている。
カリフォルニア州のモンテレー・ベイ水族館は1999年からシーフード・ウォッチというプログラムを立ち上げ、(中略)資源状態の悪い食べてはいけない魚と食べていい魚のリストを提供してきており、米国での魚の消費行動に影響を及ぼしてきている。このリストではクロマグロは食べてはいけない(avoid)魚である。
ほか、MSC認証を獲得した水産物だけ販売する試みもある
米国の動きに対し日本での取り組みは限定的
状態の悪い資源への需要を刺激するような消費行動を変えないと、漁獲圧力や違反操業などの脅威は免れず、結果的に地域漁業管理機関が機能していない!みたいな批判の余地が生まれ、最終的に関連漁業全面停止しろ!と極端な主張が罷り通る
前例:象牙取引
密輸・密猟を撲滅するために、合法な国内市場をも全面閉鎖すべきだと言われている
まとめ
ここまでに書いてきたことの繰り返し。
p82
複雑で、時に時代遅れと言われる日本の水産物流通システムは、日本各地で獲れる様々な種類の水産物を、その量がまとまっていなくとも、新鮮なうちに、品質やコストを反映した適切な価格で多様な消費先に送り届けるシステムであった。
昔の話
多品種少量消費、多様性を支えるシステム
多様性の保護が重要であるように、食の多様性もまた食料供給のレジリエンスの要
日本の水産物消費の動向はこの逆を行き、マグロ類を含む上位わずか4種(マグロ、サケ、イカ、エビ)が鮮魚への支出金額全体の約4割を占める。